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大阪高等裁判所 昭和36年(く)62号 決定 1961年11月06日

少年 M子(昭二一・一○・二三生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は本件少年は充分な発言能力も字も書くこともできない精神薄弱児であるから少年院に入院させることによつて矯正できるものとは思われない。親の愛情による十分な監視と保護のもとにおいて医療を施すことが最も適切な方法であるにかかわらず原審が医療少年院送致の決定をしたのは不当であるというにある。

よつて本件記録を精査すると、本件少年は抗告申立人のいうとおり知能の低い精神薄弱児であり、昭和三十六年二月掏りの非行二件を犯して同年三月十六日大阪家庭裁判所において保護観察処分に付されたのにかかわらずまたまた本件の非行を犯すに至つたものでその盗癖は固定化してきた観がある。家庭環境を見ると、少年の父母はともに働きに出ているため日中は在宅せず少年に対する監督、教育は従来放任されて来たものといつても過言ではなく、前記保護観察の処分を受けた際には母が働きに出るのをやめて強力に少年の保護に当りたいと誓いながら、その後においても特段の保護の配慮を加えた形跡もなく、右保護処分を受けて数月を出てないのに本件非行を繰り返しているところより見ると保護者において少年を保護する能力に欠けるところがあると認めざるを得ない。原審がこれら少年の資質、経歴、家庭環境、保護者の能力等を考慮し、本件少年を保護者の膝下においてその改善と更生を計ることは不可能に近いと認め、この際少年を医療少年院に収容して強力適正な矯正教育を施すべきであると判断したのは誠に相当であつて原決定の処分に何等不当はない。本件抗告の理由のないこと明白であるから少年法第三三条第一項に則り主文のとおり決定する。

(裁判長判事 児島謙二 判事 畠山成伸 判事 松浦秀寿)

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